第五章 薫の物語 明石中宮の女宮たち
6. 明石中宮、薫と小宰相の君の関係を聞く
本文 |
現代語訳 |
姫宮は、あなたに渡らせたまひにけり。大宮、 |
姫宮は、あちらにお渡りあそばした。大宮が、 |
「大将のそなたに参りつるは」 |
「大将がそちらに参ったが」 |
と問ひたまふ。御供に参りたる大納言の君、 |
とお尋ねになる。お供して参った大納言の君が、 |
「小宰相の君に、もののたまはむとにこそは、はべめりつれ」 |
「小宰相の君に、何かおっしゃろうとのことで、ございましょう」 |
と聞こゆるに、 |
と申し上げると、 |
「例、まめ人の、さすがに人に心とどめて物語するこそ、心地おくれたらむ人は苦しけれ。心のほども見ゆらむかし。小宰相などは、いとうしろやすし」 |
「いつもの、真面目人間が、やはり女性に心を止めて話をするのは、気のきかない人でしたら困ります。心の底も見透かされるでしょう。小宰相などは、とても安心です」 |
とのたまひて、御姉弟なれど、この君をば、なほ恥づかしく、「人も用意なくて見えざらむかし」と思いたり。 |
とおっしゃって、ご姉弟であるが、この君を、やはり恥ずかしく思い、「女房たちも不注意に応対しないでほしい」とお思いになっていた。 |
「人よりは心寄せたまひて、局などに立ち寄りたまふべし。物語こまやかにしたまひて、夜更けて出でたまふ折々もはべれど、例の目馴れたる筋にははべらぬにや。宮をこそ、いと情けなくおはしますと思ひて、御いらへをだに聞こえずはべるめれ。かたじけなきこと」 |
「どの女房よりも心をお寄せになって、局などにお立ち寄りなさるのでしょう。お話を親密になさって、夜が更けてお帰りになる時々もございましたが、普通のありふれた色恋沙汰ではないのでしょうか。宮を、とても情けないお方と思って、お返事さえ差し上げないようでございます。恐れ多いこと」 |
と言ひて笑へば、宮も笑はせたまひて、 |
と言って笑うと、宮もにっこりあそばして、 |
「いと見苦しき御さまを、思ひ知るこそをかしけれ。いかで、かかる御癖やめたてまつらむ。恥づかしや、この人びとも」 |
「ひどく見苦しいご様子を、知っているのがおもしろい。何とかして、あのようなお癖を止めさせ申したいものです。恥ずかしいね、そなたたちの手前も」 |
とのたまふ。 |
とおっしゃる。 |