第二章 藤壺の物語 夏の密通と妊娠の苦悩物語
3.初秋七月に藤壺宮中に戻る
本文 |
現代語訳 |
七月になりてぞ参りたまひける。めづらしうあはれにて、いとどしき御思ひのほど限りなし。すこしふくらかになりたまひて、うちなやみ、面痩せたまへる、はた、げに似るものなくめでたし。 |
七月になって宮は参内なさった。珍しい事で感動深くて、以前にも増す御寵愛ぶりはこの上もない。少しふっくらとおなりになって、ちょっと悩ましげに、面痩せしていらっしゃるのは、それはそれでまた、なるほど比類なく素晴らしい。 |
例の、明け暮れ、こなたにのみおはしまして、御遊びもやうやうをかしき空なれば、源氏の君も暇なく召しまつはしつつ、御琴、笛など、さまざまに仕うまつらせたまふ。いみじうつつみたまへど、忍びがたき気色の漏り出づる折々、宮も、さすがなる事どもを多く思し続けけり。 |
例によって、明け暮れ、帝はこちらにばかりお出ましになって、管弦の御遊もだんだん興の乗る季節なので、源氏の君も暇のないくらいお側にたびたびお召しになって、お琴や、笛など、いろいろと君にご下命あそばす。つとめてお隠しになっているが、我慢できない気持ちが外に現れ出てしまう折々、藤壺宮も、さすがに忘れられない事どもをあれこれとお思い悩み続けていらっしゃるのであった。 |