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関屋

第一章 空蝉の物語 逢坂関での再会の物語

1. 空蝉、夫と常陸国下向

 

本文

現代語訳

 伊予介といひしは、故院崩れさせたまひて、またの年、常陸になりて下りしかば、かの帚木もいざなはれにけり。須磨の御旅居も遥かに聞きて、人知れず思ひやりきこえぬにしもあらざりしかど、伝へ聞こゆべきよすがだになくて、筑波嶺の山を吹き越す風も、浮きたる心地して、いささかの伝へだになくて、年月かさなりにけり。限れることもなかりし御旅居なれど、京に帰り住みたまひて、またの年の秋ぞ、常陸は上りける。

 伊予介と言った人は、故院が御崩御あそばして、その翌年に、常陸介になって下行したので、あの帚木も一緒に連れられて行ったのであった。須磨でのご生活も遥か遠くに聞いて、人知れずお偲び申し上げないではなかったが、お便りを差し上げる手段さえなくて、筑波嶺を吹き越して来る風聞も、不確かな気がして、わずかの噂さえ聞かなくて、歳月が過ぎてしまったのだった。いつまでとは決まっていなかったご退去であったが、京に帰り住まわれることになって、その翌年の秋に、常陸介は上京したのであった。


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