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松風

第四章 紫の君の物語 嫉妬と姫君への関心

1. 二条院に帰邸

 

本文

現代語訳

 殿におはして、とばかりうち休みたまふ。山里の御物語など聞こえたまふ。

邸にお帰りになって、しばらくの間お休みになる。山里のお話など申し上げなさる。

 「暇聞こえしほど過ぎつれば、いと苦しうこそ。この好き者どもの尋ね来て、いといたう強ひとどめしに、引かされて。今朝は、いとなやまし」

「お暇を頂戴したのが過ぎてしまったので、とても申し訳ありません。この風流人たちが尋ねて来て、無理に引き止めたので、それにつられて。今朝は、とても気分が悪い」

 とて、大殿籠もれり。例の、心とけず見えたまへど、見知らぬやうにて、

 と言って、お寝みになった。例によって、不機嫌のようでいらしたが、気づかないないふりをして、

 「なずらひならぬほどを、思し比ぶるも、悪きわざなめり。我は我と思ひなしたまへ」

 「比較にならない身分を、お比べになっても、良くないようです。自分は自分と思っていらっしゃい」

 と、教へきこえたまふ。

 と、お教え申し上げなさる。

 暮れかかるほどに、内裏へ参りたまふに、ひきそばめて急ぎ書きたまふは、かしこへなめり。側目こまやかに見ゆ。うちささめきて遣はすを、御達など、憎みきこゆ。

 日が暮かかるころに、宮中へ参内なさるが、脇に隠して急いでお認めになるのは、あちらへなのであろう。横目には愛情深く見える。小声で言って遣わすのを、女房たちは、憎らしいとお思い申し上げる。



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