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行幸

第三章 玉鬘の物語 裳着の物語    

2. 二月十六日、玉鬘の裳着の儀     

 

本文

現代語訳

 かくてその日になりて、三条の宮より、忍びやかに御使あり。御櫛の筥など、にはかなれど、ことどもいときよらにしたまうて、御文には、

 こうしてその当日となって、三条宮からも、こっそりとお使いがある。御櫛の箱など、急なことであるが、種々の品々をたいそう見事に仕立てなさって、お手紙には、

 「聞こえむにも、いまいましきありさまを、今日は忍びこめはべれど、さるかたにても、長き例ばかりを思し許すべうや、とてなむ。あはれにうけたまはり、あきらめたる筋をかけきこえむも、いかが。御けしきに従ひてなむ。

 「お手紙を差し上げるにも、憚れる尼姿のため、今日は引き籠もっておりますが、それに致しましても、長生きの例にあやかって戴くということで、お許し下さるだろうかと存じまして。しみじみと感動してお聞き致しまして、はっきりしました事情を申し上げるのも、どうかと存じまして。あなたのお気持ち次第で。

  ふたかたに言ひもてゆけば玉櫛笥

   わが身はなれぬ懸子なりけり」

  どちらの方から言いましてもあなたはわたしにとって

   切っても切れない孫に当たる方なのですね」

 と、いと古めかしうわななきたまへるを、殿もこなたにおはしまして、ことども御覧じ定むるほどなれば、見たまうて、

 と、たいそう古風に震えてお書きになっているのを、殿もこちらにいらっしゃって、準備をお命じになっている時なので、御覧になって、

 「古代なる御文書きなれど、いたしや、この御手よ。昔は上手にものしたまひけるを、年に添へて、あやしく老いゆくものにこそありけれ。いとからく御手ふるひにけり」

 「古風なご文面だが、大したものだ、このご筆跡は。昔はお上手でいらっしゃったが、年を取るに従って、奇妙に筆跡も年寄じみて行くものですね。たいそう痛々しいほどお手が震えていらっしゃるなあ」

 など、うち返し見たまうて、

 などと、繰り返し御覧になって、

 「よくも玉櫛笥にまつはれたるかな。三十一字の中に、異文字は少なく添へたることのかたきなり」

 「よくもこれほど玉くしげに引っ掛けた歌だ。三十一文字の中に、無縁な文字を少ししか使わずに詠むということは難しいことだ」

 と、忍びて笑ひたまふ。

と、そっとお笑いになる。



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