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藤袴

第一章 玉鬘の物語 玉鬘と夕霧との新関係    

3. 夕霧、玉鬘に言い寄る     

 

本文

現代語訳

 そら消息をつきづきしくとり続けて、こまやかに聞こえたまふ。主上の御けしきのただならぬ筋を、さる御心したまへ、などやうの筋なり。いらへたまはむ言もなくて、ただうち嘆きたまへるほど、忍びやかに、うつくしくいとなつかしきに、なほえ忍ぶまじく、

 嘘の伝言をそれらしく次々と続けて、こまごまと申し上げなさる。主上のご執心が並大抵ではないのを、ご注意なさい、などというようなことである。お答えなさる言葉もなくて、ただそっと溜息をついていらっしゃるのが、ひっそりとして、かわいらしくとても優しいので、やはり我慢できず、

 「御服も、この月には脱がせたまふべきを、日ついでなむ吉ろしからざりける。十三日に、河原へ出でさせたまふべきよしのたまはせつ。なにがしも御供にさぶらふべくなむ思ひたまふる」

 「ご服喪も、今月にはお脱ぎになる予定ですが、日が吉くありませんでした。十三日に、河原へお出であそばすようにとおっしゃっていました。わたしもお供致したいと存じております」

 と聞こえたまへば、

 と申し上げなさると、

 「たぐひたまはむもことことしきやうにやはべらむ。忍びやかにてこそよくはべらめ」

 「ご一緒くださると事が仰々しくございませんか。人目に立たないほうがよいでしょう」

 とのたまふ。この御服なんどの詳しきさまを、人にあまねく知らせじとおもむけたまへるけしき、いと労あり。中将も、

 とおっしゃる。このご服喪などの詳細なことを、世間の人に広く知らすまいとしていらっしゃる配慮、たいそう行き届いている。中将も、

 「漏らさじと、つつませたまふらむこそ、心憂けれ。忍びがたく思ひたまへらるる形見なれば、脱ぎ捨てはべらむことも、いともの憂くはべるものを。さても、あやしうもて離れぬことの、また心得がたきにこそはべれ。この御あらはし衣の色なくは、えこそ思ひたまへ分くまじかりけれ」

 「世間の人に知られまいと、隠していらっしゃるのが、たいそう情ないのです。恋しくてたまらなく存じました方の形見なので、脱いでしまいますのも、たいそう辛うございますのに。それにしても、不思議にご縁のありますことが、また腑に落ちないのでございます。この喪服の色を着ていなかったら、とても分からなかったことでしょう」

 とのたまへば、

 とおっしゃると、

 「何ごとも思ひ分かぬ心には、ましてともかくも思ひたまへたどられはべらねど、かかる色こそ、あやしくものあはれなるわざにはべりけれ」

 「何も分別のないわたしには、ましてどういうことか筋道も辿れませんが、このような色は、妙にしみじみと感じさせられるものでございますね」

 とて、例よりもしめりたる御けしき、いとらうたげにをかし。

 と言って、いつもよりしんみりしたご様子、たいそう可憐で美しい。



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