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藤袴

第二章 玉鬘の物語 玉鬘と柏木との新関係    

1. 柏木、内大臣の使者として玉鬘を訪問     

 

本文

現代語訳

 まことの御はらからの君たちは、え寄り来ず、「宮仕へのほどの御後見を」と、おのおの心もとなくぞ思ひける。

 実のご兄弟の公達は、近づくことができず、「宮仕えの時のご後見役をしよう」と、それぞれ待ち兼ねているのであった。

 頭中将、心を尽くしわびしことは、かき絶えにたるを、「うちつけなりける御心かな」と、人びとはをかしがるに、殿の御使にておはしたり。なほもて出でず、忍びやかに御消息なども聞こえ交はしたまひければ、月の明かき夜、桂の蔭に隠れてものしたまへり。見聞き入るべくもあらざりしを、名残なく南の御簾の前に据ゑたてまつる。

 頭中将は、心の底から恋い焦がれていたことは、すっかりなくなったのを、「てきめんに変わるお心だわ」と、女房たちがおもしろがっているところに、殿のお使いとしていらっしゃった。やはり表向きに出さず、こっそりとお手紙なども差し上げなさったので、月の明るい夜、桂の蔭に隠れていらっしゃった。手紙を見たり聞いたりしなかったのに、すっかり変わって南の御簾の前にお通し申し上げる。

 みづから聞こえたまはむことはしも、なほつつましければ、宰相の君して応へ聞こえたまふ。

 ご自身からお返事を申し上げなさることは、やはり遠慮されるので、宰相の君を介してお答え申し上げなさる。

 「なにがしらを選びてたてまつりたまへるは、人伝てならぬ御消息にこそはべらめ。かくもの遠くては、いかが聞こえさすべからむ。みづからこそ、数にもはべらねど、絶えぬたとひもはべなるは。いかにぞや、古代のことなれど、頼もしくぞ思ひたまへける」

 「わたしを選んで差し向け申されたのは、直に伝えよとのお便りだからでございましょう。このように離れていては、どのように申し上げたらよいのでしょう。わたしなど、物の数にも入りませんが、切っても切れない縁と言う喩えもありましょう。何と言いましょうか、古風な言い方ですが、頼みに存じておりますよ」

 とて、ものしと思ひたまへり。

 と言って、おもしろくなく思っていらっしゃった。

 「げに、年ごろの積もりも取り添へて、聞こえまほしけれど、日ごろあやしく悩ましくはべれば、起き上がりなどもえしはべらでなむ。かくまでとがめたまふも、なかなか疎々しき心地なむしはべりける」

 「お言葉通り、これまでの積もる話なども加えて、申し上げたいのですが、ここのところ妙に気分がすぐれませんので、起き上がることなどもできずにおります。こんなにまでお責めになるのも、かえって疎ましい気持ちが致しますわ」

 と、いとまめだちて聞こえ出だしたまへり。

 と、たいそう真面目に申し上げさせなさった。

 「悩ましく思さるらむ御几帳のもとをば、許させたまふまじくや。よしよし。げに、聞こえさするも、心地なかりけり」

 「ご気分がすぐれないとおっしゃる御几帳の側に、入れさせて下さいませんか。よいよい。なるほど、このようなことを申し上げるのも、気の利かないことだな」

 とて、大臣の御消息ども忍びやかに聞こえたまふ用意など、人には劣りたまはず、いとめやすし。

 と言って、大臣のご伝言の数々をひっそりと申し上げなさる態度など、誰にも引けをおとりにならず、まことに結構である。



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