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若菜上

第一章 朱雀院の物語 女三の宮の婿選び    

5. 朱雀院の夕霧評    

 

本文

現代語訳

 女房などは、覗きて見きこえて、

 女房などは、覗き見申して、

 「いとありがたくも見えたまふ容貌、用意かな」

 「本当に立派にお見えになる容貌や、態度ですこと」

 「あな、めでた」

 「ああ、素晴らしい」

 など、集りて聞こゆるを、老いしらへるは、

 などと、集まってお噂申し上げているのを、年輩の女房は、

 「いで、さりとも、かの院のかばかりにおはせし御ありさまには、えなずらひきこえたまはざめり。いと目もあやにこそきよらにものしたまひしか」

 「さあ、どうかしら、そうは言っても、あの院がこれぐらいお年でいらっしゃった時のご様子には、とてもお比べ申し上げることはおできになれません。実に眩しいほどお美しくいらっしゃいました」

 など、言ひしろふを聞こしめして、

 などと、言い合うのをお耳にあそばして、

 「まことに、かれはいとさま異なりし人ぞかし。今はまた、その世にもねびまさりて、光るとはこれを言ふべきにやと見ゆる匂ひなむ、いとど加はりにたる。うるはしだちて、はかばかしき方に見れば、いつくしくあざやかに、目も及ばぬ心地するを、また、うちとけて、戯れごとをも言ひ乱れ遊べば、その方につけては、似るものなく愛敬づき、なつかしくうつくしきことの、並びなきこそ、世にありがたけれ。何ごとにも前の世推し量られて、めづらかなる人のありさまなり。

 「本当に、あの方は特別の人であった。今はまた、あの当時以上に立派になって、光り輝くとはこれを言うべきなのかと見える輝きが、一段と加わっている。威儀を正して、公事に携わっているところを見ると、堂々として鮮やかで、目も眩ゆい気がするが、また一方に、うちくつろいで、冗談を言ってふざけるところは、その方面では、またとないほど愛嬌があって、親しみやすく愛らしいこと、この上ないのは、めったにいない人だ。何事につけても前世の果報が思いやられて、類稀な人柄だ。

 宮の内に生ひ出でて、帝王の限りなくかなしきものにしたまひ、さばかり撫でかしづき、身に変へて思したりしかど、心のままにも驕らず、卑下して、二十がうちには、納言にもならずなりにきかし。一つ余りてや、宰相にて大将かけたまへりけむ。

 宮中で成長して、帝王がこの上なくおかわいがりなさり、あれほど大事にし、わが身以上に大切になさったが、いい気になって増長することもなく、謙虚にして、二十歳までは、中納言にもならずじまいだった。一つ越してか、宰相で大将を兼官なさったろう。

 それに、これはいとこよなく進みにためるは、次々の子の世のおぼえのまさるなめりかし。まことに賢き方の才、心もちゐなどは、これもをさをさ劣るまじく、あやまりても、およすけまさりたるおぼえ、いと異なめり」

 それに比べて、こちらはこの上なく昇進しているのは、親から子へと次第に声望が高まっていくのであろう。本当に公事に関する才能、心構えなどは、こちらも決して父親に劣らず、たとい間違っても、年々老成してきたという評判は、たいそう格別なようだ」

 など、めでさせたまふ。

 などと、お誉めあそばす。



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