第十二章 明石の物語 一族の宿世
1. 東宮からのお召しの催促
本文 |
現代語訳 |
宮より、とく参りたまふべきよしのみあれば、 |
東宮から、早く参内なさるようにとのお召しが始終あるので、 |
「かく思したる、ことわりなり。めづらしきことさへ添ひて、いかに心もとなく思さるらむ」 |
「そのようにお思いあそばすのも、無理のないことです。おめでたいことまで加わって、どんなにか待ち遠しがっていらっしゃることでしょう」 |
と、紫の上ものたまひて、若宮忍びて参らせたてまつらむ御心づかひしたまふ。 |
と、紫の上もおっしゃって、若宮をこっそりと参上させようとご準備なさる。 |
御息所は、御暇の心やすからぬに懲りたまひて、かかるついでに、しばしあらまほしく思したり。ほどなき御身に、さる恐ろしきことをしたまへれば、すこし面痩せ細りて、いみじくなまめかしき御さましたまへり。 |
御息所は、なかなかお暇が出ないのにお懲りになって、このような機会に、暫くお里にいたいと思っていらっしゃった。年端も行かないお身体で、あのような恐ろしいご出産をなさったので、少しお顔がお痩せになって、たいそう優美なご様子をしていらっしゃった。 |
「かく、ためらひがたくおはするほど、つくろひたまひてこそは」 |
「このような、まだおやつれになっていらっしゃるのですから、もう少し静養なさってからでは」 |
など、御方などは心苦しがりきこえたまふを、大殿は、 |
などと、御方などはお気の毒にお思い申し上げなさるが、大殿は、 |
「かやうに面痩せて見えたてまつりたまはむも、なかなかあはれなるべきわざなり」 |
「このように面痩せしてお目通りなさるのも、かえって魅力が増すものですよ」 |
などのたまふ。 |
などとおっしゃる。 |