第十三章 女三の宮の物語 柏木、女三の宮を垣間見る
2.夕霧、女三の宮を他の女性と比較
本文 |
現代語訳 |
かやうのことを、大将の君も、 |
このようなことを、大将の君も、 |
「げにこそ、ありがたき世なりけれ。紫の御用意、けしきの、ここらの年経ぬれど、ともかくも漏り出で見え聞こえたるところなく、しづやかなるをもととして、さすがに、心うつくしう、人をも消たず、身をもやむごとなく、心にくくもてなし添へたまへること」 |
「なるほど、立派な方はなかなかいないものだな。紫の上のお心がけ、態度は、長年たったけれども、何かと噂に出て見えたり聞こえたりするところはなく、もの静かな点を第一として、何と言っても、心やさしく、人をないがしろにせず、自分自身も気品高く、奥ゆかしくしていらっしゃることよ」 |
と、見し面影も忘れがたくのみなむ思ひ出でられける。 |
と、垣間見した面影を忘れ難くばかり思い出されるのであった。 |
「わが御北の方も、あはれと思す方こそ深けれ、いふかひあり、すぐれたるらうらうじさなど、ものしたまはぬ人なり。おだしきものに、今はと目馴るるに、心ゆるびて、なほかくさまざまに、集ひたまへるありさまどもの、とりどりにをかしきを、心ひとつに思ひ離れがたきを、ましてこの宮は、人の御ほどを思ふにも、限りなく心ことなる御ほどに、取り分きたる御けしきしもあらず、人目の飾りばかりにこそ」 |
「自分の北の方も、かわいいとお思いになることは強いのであるが、取り上げるほどの、人に勝れた才覚などは、お持ちでない方だ。安心していられる人と、もう今は安心だと見慣れているために、気が緩んで、やはりこのように、いろいろな方がお集まりになっていらっしゃる様子が、それぞれにご立派でいらっしゃるのを、内心密かに関心を捨て切れないでいるところに、ましてこの宮は、ご身分を考えるにつけても、この上なく格別のお生まれなのに、特別のご寵愛でもなく、世間体を飾っているだけのことだ」 |
と見たてまつり知る。わざとおほけなき心にしもあらねど、「見たてまつる折ありなむや」と、ゆかしく思ひきこえたまひけり。 |
とお見受けする。特に大それた考えではないが、「拝見する機会があるだろうか」と、関心をお寄せになっていらっしゃった。 |