第十三章 女三の宮の物語 柏木、女三の宮を垣間見る
2. 夕霧、女三の宮を他の女性と比較
本文 |
現代語訳 |
衛門督の君も、院に常に参り、親しくさぶらひ馴れたまひし人なれば、この宮を父帝のかしづきあがめたてまつりたまひし御心おきてなど、詳しく見たてまつりおきて、さまざまの御定めありしころほひより聞こえ寄り、院にも、「めざましとは思し、のたまはせず」と聞きしを、かくことざまになりたまへるは、いと口惜しく、胸いたき心地すれば、なほえ思ひ離れず。 |
衛門督の君も、朱雀院に常に参上し、常日頃親しく伺候していらっしゃった方なので、この宮を父帝が大切になさっていらっしゃったご意向など、詳細に拝見していて、いろいろなご縁談があったころから申し出で、院におかせられても、「出過ぎた者とはお思いでなく、おっしゃりもしなかった」と聞いていたが、このようにご降嫁になったのは、大変に残念で、胸の痛む心地がするので、やはり諦めることができない。 |
その折より語らひつきにける女房のたよりに、御ありさまなども聞き伝ふるを慰めに思ふぞ、はかなかりける。 |
そのころから親しくなっていた女房の口から、ご様子なども伝え聞きくのを慰めにしているのは、はかないことであった。 |
「対の上の御けはひには、なほ圧されたまひてなむ」と、世人もまねび伝ふるを聞きては、 |
「対の上のご寵愛には、やはり圧倒されていらっしゃる」と、世間の人が噂しているのを聞いては、 |
「かたじけなくとも、さるものは思はせたてまつらざらまし。げに、たぐひなき御身にこそ、あたらざらめ」 |
「恐れ多いことだが、そのような辛い思いはおさせ申さなかったろうに。いかにも、そのような高いご身分の相手には、相応しくないだろうが」 |
と、常にこの小侍従といふ御乳主をも言ひはげまして、 |
と、いつもこの小侍従という御乳母子を責めたてて、 |
「世の中定めなきを、大殿の君、もとより本意ありて思しおきてたる方に赴きたまはば」 |
「世の中は無常なものだから、大殿の君が、もともと抱いていらしたご出家をお遂げなさったら」 |
と、たゆみなく思ひありきけり。 |
と、怠りなく思い続けていらっしゃるのであった。 |