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若菜上

第十三章 女三の宮の物語 柏木、女三の宮を垣間見る    

2. 夕霧、女三の宮を他の女性と比較     

 

本文

現代語訳

 弥生ばかりの空うららかなる日、六条の院に、兵部卿宮、衛門督など参りたまへり。大殿出でたまひて、御物語などしたまふ。

 三月ころの空がうららかに晴れた日、六条の院に、兵部卿宮、衛門督などが参上なさった。大殿がお出ましになって、お話などなさる。

 「静かなる住まひは、このごろこそいとつれづれに紛るることなかりけれ。公私にことなしや。何わざしてかは暮らすべき」

 「静かな生活は、このごろ大変に退屈で気の紛れることがないね。公私とも平穏無事だ。何をして今日一日を暮らせばよかろう」

 などのたまひて、

 などとおっしゃって、

 「今朝、大将のものしつるは、いづ方にぞ。いとさうざうしきを、例の、小弓射させて見るべかりけり。好むめる若人どもも見えつるを、ねたう出でやしぬる」

 「今朝、大将が来ていたが、どこに行ったか。何とももの寂しいから、いつものように、小弓を射させて見物すればよかった。愛好者らしい若い人たちが見えていたが、惜しいことに帰ってしまったかな」

 と、問はせたまふ。

 と、お尋ねさせなさる。

 「大将の君は、丑寅の町に、人びとあまたして、鞠もて遊ばして見たまふ」と聞こしめして、

 「大将の君は、丑寅の町で、人々と大勢して、蹴鞠をさせて御覧になっていらっしゃる」とお聞きになって、

 「乱りがはしきことの、さすがに目覚めてかどかどしきぞかし。いづら、こなたに」

 「無作法な遊びだが、それでも派手で気の利いた遊びだ。どれ、こちらで」

 とて、御消息あれば、参りたまへり。若君達めく人びと多かりけり。

 といって、お手紙があったので、参上なさった。若い公達らしい人々が多くいたのであった。

 「鞠持たせたまへりや。誰々かものしつる」

 「鞠をお持たせになったか。誰々が来たか」

 とのたまふ。

 とお尋ねになる。

 「これかれはべりつ」

 「誰それがおります」

 「こなたへまかでむや」

 「こちらへ来ませんか」

 とのたまひて、寝殿の東面、桐壺は若宮具したてまつりて、参りたまひにしころなれば、こなた隠ろへたりけり。遣水などのゆきあひはれて、よしあるかかりのほどを尋ねて立ち出づ。太政大臣殿の君達、頭弁、兵衛佐、大夫の君など、過ぐしたるも、まだ片なりなるも、さまざまに、人よりまさりてのみものしたまふ。

 とおっしゃって、寝殿の東面は、桐壷の女御は若宮をお連れ申し上げていらっしゃっている折なので、こちらはひっそりしていた。遣水などの合流する所が広々としていて、趣のある場所を探しに出て行く。太政大臣の公達の、頭弁、兵衛佐、大夫の君などの、年輩者も、また若い者も、それぞれに、他の人より立派な方ばかりでいらっしゃる。



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