第三章 夕霧の物語 匂宮と薫
2. 源氏の孫君たち、夕霧を奪い合う
本文 |
現代語訳 |
こなたにも、二の宮の、若君とひとつに混じりて遊びたまふ、うつくしみておはしますなりけり。隅の間のほどに下ろしたてまつりたまふを、二の宮見つけたまひて、 |
こちら方にも、二の宮が、若君とご一緒になって遊んでいらっしゃるのを、かわいがっておいであそばすのであった。隅の間の所にお下ろし申し上げなさるのを、二の宮が見つけなさって、 |
「まろも大将に抱かれむ」 |
「わたしも大将に抱かれたい」 |
とのたまふを、三の宮、 |
とおっしゃるのを、三の宮は、 |
「あが大将をや」 |
「わたしの大将なのだから」 |
とて、控へたまへり。院も御覧じて、 |
と言って、お放しにならない。院も御覧になって、 |
「いと乱りがはしき御ありさまどもかな。公の御近き衛りを、私の随身に領ぜむと争ひたまふよ。三の宮こそ、いとさがなくおはすれ。常に兄に競ひ申したまふ」 |
「まことにお行儀の悪いお二方ですね。朝廷のお身近の警護の人を、自分の随身にしようと争いなさるとは。三の宮が、特にいじわるでいらっしゃいます。いつも兄宮に負けまいとなさる」 |
と、諌めきこえ扱ひたまふ。大将も笑ひて、 |
と、おたしなめ申して仲裁なさる。大将も笑って、 |
「二の宮は、こよなく兄心にところさりきこえたまふ御心深くなむおはしますめる。御年のほどよりは、恐ろしきまで見えさせたまふ」 |
「二の宮は、すっかりお兄様らしく弟君に譲って上げるお気持ちが十分におありのようです。お年のわりには、こわいほどご立派にお見えになります」 |
など聞こえたまふ。うち笑みて、いづれもいとうつくしと思ひきこえさせたまへり。 |
などと申し上げなさる。ほほ笑んで、どちらもとてもかわいらしいとお思い申し上げあそばしていらっしゃった。 |
「見苦しく軽々しき公卿の御座なり。あなたにこそ」 |
「見苦しく失礼なお席だ。あちらへ」 |
とて、渡りたまはむとするに、宮たちまつはれて、さらに離れたまはず。宮の若君は、宮たちの御列にはあるまじきぞかしと、御心のうちに思せど、なかなかその御心ばへを、母宮の、御心の鬼にや思ひ寄せたまふらむと、これも心の癖に、いとほしう思さるれば、いとらうたきものに思ひかしづききこえたまふ。 |
とおっしゃって、お渡りになろうとすると、宮たちがまとわりついて、まったくお離れにならない。宮の若君は、宮たちとご同列に扱うべきではないと、ご心中にはお考えになるが、かえってそのお気持ちを、母宮が、心にとがめて気を回されることだろうと、これもまたご性分で、お気の毒に思われなさるので、とても大切にお扱い申し上げなさる。 |