第三章 一条御息所の物語 行き違いの不幸
7. 朱雀院の弔問の手紙
本文 |
現代語訳 |
所々の御弔ひ、いつの間にかと見ゆ。大将殿も、限りなく聞き驚きたまうて、まづ聞こえたまへり。六条の院よりも、致仕の大殿よりも、すべていとしげう聞こえたまふ。山の帝も聞こし召して、いとあはれに御文書いたまへり。宮は、この御消息にぞ、御ぐしもたげたまふ。 |
あちこちからのご弔問、いつの間に知れたのかと見える。大将殿も、限りなく驚きなさって、さっそくご弔問申し上げなさった。六条院からも、致仕の大臣からも、皆々頻繁にご弔問申し上げなさる。山の帝もお聞きあそばして、まことにしみじみとしたお手紙をお書きなさっていた。宮は、このお手紙には、おぐしをお上げなさる。 |
「日ごろ重く悩みたまふと聞きわたりつれど、例も篤しうのみ聞きはべりつるならひに、うちたゆみてなむ。かひなきことをばさるものにて、思ひ嘆いたまふらむありさま推し量るなむ、あはれに心苦しき。なべての世のことわりに思し慰めたまへ」 |
「長らく重く患っていらっしゃるとずっと聞いていましたが、いつも病気がちとばかり聞き馴れておりましたので、つい油断しておりました。言ってもしかたのないことはそれとして、お悲しみ嘆いていらっしゃるだろう有様、想像するのがお気の毒でおいたわしい。すべて世の中の定めとお諦めになって慰めなさい」 |
とあり。目も見えたまはねど、御返り聞こえたまふ。 |
とある。目もお見えにならないが、お返事は申し上げなさる。 |
常にさこそあらめとのたまひけることとて、今日やがてをさめたてまつるとて、御甥の大和守にてありけるぞ、よろづに扱ひきこえける。 |
普段からそうして欲しいとおっしゃっていたことなので、今日直ちに葬儀を執り行い申すことになって、御甥の大和守であった者が、万事お世話申し上げたのであった。 |
骸をだにしばし見たてまつらむとて、宮は惜しみきこえたまひけれど、さてもかひあるべきならねば、皆いそぎたちて、ゆゆしげなるほどにぞ、大将おはしたる。 |
せめて亡骸だけでも暫くの間拝していたいと思って、宮は惜しみ申し上げなさったが、いくら別れを惜しんでもきりがないので、皆準備にとりかかって、忌中の最中に、大将がいらっしゃった。 |
「今日より後、日ついで悪しかりけり」 |
「今日から後は、日柄が悪いのだ」 |
など、人聞きにはのたまひて、いとも悲しうあはれに、宮の思し嘆くらむことを推し量りきこえたまうて、 |
などと、人前ではおっしゃって、とても悲しくしみじみと、宮がお悲しみであろうことをご推察申し上げなさって、 |
「かくしも急ぎわたりたまふべきことならず」 |
「こんなに急いでお出掛けになる必要はありません」 |
と、人びといさめきこゆれど、しひておはしましぬ。 |
と、女房たちがお引き止め申したが、無理にいらっしゃった。 |