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夕霧

第四章 夕霧の物語 落葉宮に心あくがれる夕霧    

6. 落葉宮の返歌が届く  

 

本文

現代語訳

 日たけてぞ持て参れる。紫のこまやかなる紙すくよかにて、小少将ぞ、例の聞こえたる。ただ同じさまに、かひなきよしを書きて、

 日が高くなってから返事を持って参った。紫の濃い紙が素っ気ない感じで、小少将の君が、いつものようにお返事申し上げた。いつもと同じで、何の甲斐もないことを書いて、

 「いとほしさに、かのありつる御文に、手習ひすさびたまへるを盗みたる」

 「お気の毒なので、あの頂戴したお手紙に、手習いをしていらしたのをこっそり盗みました」

 とて、中にひき破りて入れたる、「目には見たまうてけり」と、思すばかりのうれしさぞ、いと人悪ろかりける。そこはかとなく書きたまへるを、見続けたまへれば、

 とあって、中に破いて入っていたが、「御覧になったのだ」と、お思いになるだけで嬉しいとは、とても体裁の悪い話である。とりとめもなくお書きになっているのを、見続けていらっしゃると、

 「朝夕に泣く音を立つる小野山は

   絶えぬ涙や音無の滝」   

 「朝な夕なに声を立てて泣いている小野山では

   ひっきりなしに流れる涙は音無の滝になるのだろうか」

 とや、とりなすべからむ、古言など、もの思はしげに書き乱りたまへる、御手なども見所あり。

 とか、読むのであろうか、古歌などを、悩ましそうに書き乱れていらっしゃる、ご筆跡なども見所がある。

 「人の上などにて、かやうの好き心思ひ焦らるるは、もどかしう、うつし心ならぬことに見聞きしかど、身のことにては、げにいと堪へがたかるべきわざなりけり。あやしや。など、かうしも思ふべき心焦られぞ」

 「他人の事などで、このような浮気沙汰に心焦がれているのは、はがゆくもあり、正気の沙汰でもないように見たり聞いたりしていたが、自分の事となると、なるほどまことに我慢できないものであるなあ。不思議だ。どうして、こんなにもいらいらするのだろう」

 と思ひ返したまへど、えしもかなはず。

 と反省なさるが、思うにまかせない。



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