TOP  総目次  源氏物語目次   前へ 次へ
夕霧

第五章 落葉宮の物語 夕霧執拗に迫る    

4. 夕霧、宮の帰邸を差配  

 

本文

現代語訳

 大将も、

 大将も、

 「とかく言ひなしつるも、今はあいなし。かの御心に許したまはむことは、難げなめり。御息所の心知りなりけりと、人には知らせむ。いかがはせむ。亡き人にすこし浅き咎は思はせて、いつありそめしことぞともなく、紛らはしてむ。さらがへりて、懸想だち、涙を尽くしかかづらはむも、いとうひうひしかるべし」

 「あれこれと言ってみたが、今は無駄なことだ。宮のお心ではお聞き入れなさることは、難しいことのようだ。御息所が承知済みであったと、世間の人には知らせよう。どうしようもない。亡くなった方に少し思慮が浅かったと罪を思わせて、いつからそうなったということもなく、分からなくさせてしまおう。年がいもなく若返って、懸想をし、涙を流し尽くして口説いたりするのも、いかにも身にふさわしからぬことだろう」

 と思ひ得たまうて、一条に渡りたまふべき日、その日ばかりと定めて、大和守召して、あるべき作法のたまひ、宮のうち払ひしつらひ、さこそいへども、女どちは、草茂う住みなしたまへりしを、磨きたるやうにしつらひなして、御心づかひなど、あるべき作法めでたう、壁代、御屏風、御几帳、御座などまで思し寄りつつ、大和守にのたまひて、かの家にぞ急ぎ仕うまつらせたまふ。

 と決心なさって、一条邸にお帰りになる予定の日を、何日ほどにと決めて、大和守を呼んで、しかるべき諸式をお命じになり、邸内を掃除し整え、何といっても、女世帯では、草深く住んでいらっしゃったので、磨いたように整備し直して、お気づかいぶりなどは、しかるべきやり方も立派に、壁代、御屏風、御几帳、御座所などまでお気を配りなさり、大和守にお命じになって、あちらの家で急いで準備させなさる。

 その日、我おはしゐて、御車、御前などたてまつれたまふ。宮は、さらに渡らじと思しのたまふを、人びといみじう聞こえ、大和守も、

 その日、自分でいらっしゃって、お車や、御前駆などを差し向けなさる。宮は、どうしても帰るまいとお思いになりおっしゃるのを、女房たちが熱心に説得申し上げ、大和守も、

 「さらに承らじ。心細く悲しき御ありさまを見たてまつり嘆き、このほどの宮仕へは、堪ふるに従ひて仕うまつりぬ。

 「まったくご承知するわけには行きません。心細く悲しいご様子を拝見し心を痛め、これまでのお世話は、できるだけのことはさせていただきました。

 今は、国のこともはべり、まかり下りぬべし。宮の内のことも、見たまへ譲るべき人もはべらず。いとたいだいしう、いかにと見たまふるを、かくよろづに思しいとなむを、げに、この方にとりて思たまふるには、かならずしもおはしますまじき御ありさまなれど、さこそは、いにしへも御心にかなはぬためし、多くはべれ。

 今は、任国の公務もございますし、下向しなければなりません。お邸内のことも任せられる人もございません。まことに不行届なことで、どうしたものかと心配いたしておりますが、このように万事お世話なさいますのを、なるほど、ご結婚ということを考えてみますと、必ずしも今すぐに移転するのが良いというのではないお身の上ですが、そのように、昔もお心のままにならなかった例は、多くございます。

 一所やは、世のもどきをも負はせたまふべき。いと幼くおはしますことなり。たけう思すとも、女の御心ひとつに、わが御身をとりしたため、顧みたまふべきやうかあらむ。なほ、人のあがめかしづきたまへらむに助けられてこそ、深き御心のかしこき御おきても、それにかかるべきものなり。

 あなたお一方だけが、世間の非難をお受けになることでしょうか。とても幼稚なお考えです。いくら強がっても、女一人のご分別で、ご自分の身の振りをきちんとなさり、お気をつけなさることがどうしてできましょうか。やはり、男性から大事にお世話なされるのに助けられて、初めて深いお考えによる立派なご方針も、それに依存するものなのです。

 君たちの聞こえ知らせたてまつりたまはぬなり。かつは、さるまじきことをも、御心どもに仕うまつりそめたまうて」

  あなた方がよくお教え申し上げなさらないのです。一方では、けしからぬことをも、ご自分たちの判断でかってにお取り計らい申し上げなさって」

 と、言ひ続けて、左近、少将を責む。

 と、言い続けて、左近の君や、小少将の君を責める。



TOP  総目次  源氏物語目次 ページトップへ  前へ 次へ