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夕霧

第七章 雲居雁の物語 夕霧の妻たちの物語    

1. 雲居雁、実家へ帰る  

 

本文

現代語訳

 かくせめても見馴れ顔に作りたまふほど、三条殿、

 このように無理して馴染んだ顔をしていらっしゃるので、三条殿は、

 「限りなめりと、さしもやはとこそ、かつは頼みつれ、まめ人の心変はるは名残なくなむと聞きしは、まことなりけり」

 「これが最後のようだと、まさかそんなことはあるまいと、一方では信頼していたが、実直な人が浮気したら跡形もなくなると聞いていたことは、本当のことであった」

 と、世を試みつる心地して、「いかさまにしてこのなめげさを見じ」と思しければ、大殿へ、方違へむとて、渡りたまひにけるを、女御の里におはするほどなどに、対面したまうて、すこしもの思ひはるけどころに思されて、例のやうにも急ぎ渡りたまはず。

 と、夫婦の仲を見届けてしまった感じがして、「どうにしてこの侮辱を味わっていようか」とお思いになったので、大殿邸へ、方違えしようと思って、お移りになったところ、弘徽殿の女御が里にいらっしゃる時でもあり、お会いなさって、少し悩みが晴れることとお思いになって、いつものように急いでお帰りにならない。

 大将殿も聞きたまひて、

 大将殿もお聞きになって、

 「さればよ。いと急にものしたまふ本性なり。この大臣もはた、おとなおとなしうのどめたるところ、さすがになく、いとひききりにはなやいたまへる人びとにて、めざまし、見じ、聞かじなど、ひがひがしきことどもし出でたまうつべき」

 「やはりそうであったか。まことせかっちでいらっしゃる性格だ。この大殿の方も、また、年輩者らしくゆったりと落ち着いているところが、何といってもなく、実に性急で派手でいらっしゃる方々だから、気にくわない、見るものか、聞くものかなどと、不都合なことをおっしゃり出すかも知れない」

 と、驚かれたまうて、三条殿に渡りたまへれば、君たちも、片へは止まりたまへれば、姫君たち、さてはいと幼きとをぞ率ておはしにける、見つけてよろこびむつれ、あるは上を恋ひたてまつりて、愁へ泣きたまふを、心苦しと思す。

 と、驚きなさって、三条殿にお帰りになると、子供たちも、半ばは残っていらっしゃって、姫君たちと、それからとても幼い子は連れていらっしゃっていたのだが、見つけて喜んで纏わりつき、ある者は母上を恋い慕い申して、悲しんで泣いていらっしゃるのを、かわいそうにとお思いになる。

 消息たびたび聞こえて、迎へにたてまつれたまへど、御返りだになし。かくかたくなしう軽々しの世やと、ものしうおぼえたまへど、大臣の見聞きたまはむところもあれば、暮らして、みづから参りたまへり。

 手紙を頻繁に差し上げて、お迎えに参上なさるが、お返事すらない。このように頑固で軽率な夫婦仲だと、嫌に思われなさるが、大殿が見たり聞いたりなさる手前もあるので、日が暮れてから、自分自身で参上なさった。



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