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竹河

第二章 玉鬘邸の物語 梅と桜の季節の物語    

6. 玉鬘の大君、冷泉院に参院の話   

 

本文

現代語訳

 尚侍の君、かくおとなしき人の親になりたまふ御年のほど思ふよりは、いと若うきよげに、なほ盛りの御容貌と見えたまへり。冷泉院の帝は、多くは、この御ありさまのなほゆかしう、昔恋しう思し出でられければ、何につけてかはと、思しめぐらして、姫君の御ことを、あながちに聞こえたまふにぞありける。院へ参りたまはむことは、この君たちぞ、

 尚侍の君は、このように成人した子の親におなりのお年の割には、たいそう若く美しく、依然として盛りのご容貌にお見えになった。冷泉院の帝は、主として、この方のご様子が依然として心に掛かって、昔が恋しく思い出されなさったので、何にかこつけたらよいかと、思案なさって、姫君のご入内の事を、無理やりに申し込みなさるのであった。院に入内なさることは、この君たちが、

 「なほ、ものの栄なき心地こそすべけれ。よろづのこと、時につけたるをこそ、世人も許すめれ。げに、いと見たてまつらまほしき御ありさまは、この世にたぐひなくおはしますめれど、盛りならぬ心地ぞするや。琴笛の調べ、花鳥の色をも音をも、時に従ひてこそ、人の耳もとまるものなれ。春宮は、いかが」

 「やはり、栄えない気がしましょう。万事が、時流に乗ってこそ、世間の人も認めましょう。なるほど、まことに拝したいお姿は、この世に類なくいらっしゃるようですが、盛りを過ぎた感じがしますね。琴や笛の調子、花や鳥の色や音色も、時期にかなってこそ、人の耳にも止まるものです。春宮は、どうでしょうか」

 など申したまへば、

 などと申し上げなさると、

 「いさや、はじめよりやむごとなき人の、かたはらもなきやうにてのみ、ものしたまふめればこそ。なかなかにて交じらはむは、胸いたく人笑へなることもやあらむと、つつましければ。殿おはせましかば、行く末の御宿世宿世は知らず、ただ今は、かひあるさまにもてなしたまひてましを」

 「さあ、どんなものかしら、最初から重々しい方が、並ぶ者がいないような勢いで、いらっしゃるようですからね。なまじっかの宮仕えは、胸を痛め物笑いになることもあろうかと、気が引けますので。殿が生きていらっしゃったならば、将来のご運は判らないが、この今は、張り合いのある状態になさっていたでしょうに」

 などのたまひ出でて、皆ものあはれなり。

 などとおっしゃって、皆しみじみと悲しい思いがする。



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