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竹河

第三章 玉鬘の大君の物語 冷泉院に参院   

4. 四月九日、大君、冷泉院に参院   

 

本文

現代語訳

 九日にぞ、参りたまふ。右の大殿、御車、御前の人びとあまたたてまつりたまへり。北の方も、恨めしと思ひきこえたまへど、年ごろさもあらざりしに、この御ことゆゑ、しげう聞こえ通ひたまへるを、またかき絶えむもうたてあれば、被け物ども、よき女の装束ども、あまたたてまつれたまへり。

 九日に、院に参上なさる。右の大殿は、お車、御前駆の人びとを大勢差し上げなさった。北の方も、恨めしくお思い申し上げなさったが、長年それほどでもなかったっが、このご一件で、しきりに手紙のやりとりなさったのに、再び途絶えてしまうこともおかしいので、禄や、立派な女の装束などを、たくさん差し上げなさった。

 「あやしう、うつし心もなきやうなる人のありさまを、見たまへ扱ふほどに、承りとどむることもなかりけるを、おどろかさせたまはぬも、うとうとしくなむ」

 「不思議と、気の抜けたような息子の様子を、お世話していますうちに、はっきりと承ることもなかったので、お知らせ下さらなかったことを、他人行儀なと思っております」

 とぞありける。おいらかなるやうにてほのめかしたまへるを、いとほしと見たまふ。大臣も御文あり。

 とあったのだった。穏やかなようでいてそれとなく恨み言をこめなさったのを、困ったことと御覧になる。大臣からもお手紙がある。

 「みづからも参るべきに、思うたまへつるに、慎む事のはべりてなむ。男ども、雑役にとて参らす。疎からず召し使はせたまへ」

 「わたし自身参上しなければ、と存じましたが、物忌みがございまして。子息たちを、雑用にと思って伺わせます。ご遠慮なさらずお使い下さい」

 とて、源少将、兵衛佐など、たてまつれたまへり。「情けはおはすかし」と、喜びきこえたまふ。大納言殿よりも、人びとの御車たてまつれたまふ。北の方は、故大臣の御女、真木柱の姫君なれば、いづかたにつけても、睦ましう聞こえ通ひたまふべけれど、さしもあらず。

 と言って、源少将、兵衛佐など、を差し上げなさった。「ご厚意ありがとうございます」と、お礼申し上げなさる。大納言殿からも、女房たちのお車を差し上げなさる。北の方は、故大臣の娘で、真木柱の姫君なので、どちらの関係から見ても、親しくご交際なさり合うはずでいらっしゃるが、そんなにでもない。

 藤中納言はしも、みづからおはして、中将、弁の君たち、もろともに事行ひたまふ。殿のおはせましかばと、よろづにつけてあはれなり。

 藤中納言は、ご自身でいらっしゃって、中将や、弁の君たちと、一緒に準備をなさる。殿が生きていらっしゃったならばと、何事につけても悲しい思いがする。



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