第三章 宇治の姉妹の物語 晩秋の傷心の姫君たち
4. 薫、宇治を訪問
本文 |
現代語訳 |
中納言殿の御返りばかりは、かれよりもまめやかなるさまに聞こえたまへば、これよりも、いとけうとげにはあらず聞こえ通ひたまふ。御忌果てても、みづから参うでたまへり。東の廂の下りたる方にやつれておはするに、近う立ち寄りたまひて、古人召し出でたり。 |
中納言殿へのお返事だけは、あちらからも誠意あるように手紙を差し上げなさるので、こちらからも、よそよそしくなくお返事申し上げなさる。ご忌中が終わっても、自分自身でお伺いなさった。東の廂の下がった所に喪服でいらっしゃるところに、近く立ち寄りなって、老女を召し出した。 |
闇に惑ひたまへる御あたりに、いとまばゆく匂ひ満ちて入りおはしたれば、かたはらいたうて、御いらへなどをだにえしたまはねば、 |
闇に閉ざされていらっしゃるお側近くに、たいそう眩しいばかりの美しさに満ちてお入りになったので、恥ずかしくなって、お返事などでさえもおできになれないので、 |
「かやうには、もてないたまはで、昔の御心むけに従ひきこえたまはむさまならむこそ、聞こえ承るかひあるべけれ。なよびけしきばみたる振る舞ひをならひはべらねば、人伝てに聞こえはべるは、言の葉も続きはべらず」 |
「このようには、お扱い下さらないで、故宮のご意向にお従い申されるのが、お話を承る効があるというものです。風流に気取った振る舞いには馴れていませんので、人を介して申し上げますのは、言葉が続きません」 |
とあれば、 |
と言うので、 |
「あさましう、今までながらへはべるやうなれど、思ひさまさむ方なき夢にたどられはべりてなむ、心よりほかに空の光見はべらむもつつましうて、端近うもえみじろきはべらぬ」 |
「思いのほかに、今日まで生き永らえておりますようですが、思い覚まそうにも覚ましようもない夢の中にいるように思われまして、心ならず空の光を見ますのも遠慮されて、端近くに出ることもできません」 |
と聞こえたまへれば、 |
と申し上げなさっているので、 |
「ことといへば、限りなき御心の深さになむ。月日の影は、御心もて晴れ晴れしくもて出でさせたまはばこそ、罪もはべらめ。行く方もなく、いぶせうおぼえはべり。また思さるらむは、しばしをも、あきらめきこえまほしくなむ」 |
「おっしゃることといえば、この上ないご思慮の深さです。月日の光は、ご自身その気になって晴れ晴れしく振る舞いなさるならば、罪にもなりましょう。どうしてよいか分からず、気持ちが晴れません。またお悩みを、少しでも、お晴らし申し上げたく思います」 |
と申したまへば、 |
と申し上げなさると、 |
「げに、こそ。いとたぐひなげなめる御ありさまを、慰めきこえたまふ御心ばへの浅からぬほど」など、聞こえ知らす。 |
「ほんとうですこと。まことに例のないようなご愁傷を、お慰め申し上げなさるお気持ちも並一通りでないこと」などと、お諭し申し上げる。 |