椎本あらすじ
匂宮は、薫からの話で心が動き、宇治の中宿りを念頭に置いて、長谷観音に詣でた。帰途は、予定の如く、夕霧の別荘に中宿りして、演奏をした。その楽の音は、対岸の八宮の別荘にも聞こえた。八宮が、薫に消息なさると、その返事は匂宮が書いた。それ以来、匂宮への返事は、中君がいつも書いた。
八宮は、今年が厄年に当る。死期を予感して、姫君達の事を心配しながらも、見苦しい婚縁などせぬようになどと、結婚に関する注意を遺言して山寺に参籠せられた。八宮は、参籠の日限の果てる頃から病み出された。
八宮は、山寺に他界せられ、姫君達は、悲嘆の底に沈んだ。薫からも匂宮からも、弔問の消息がある。葬送も追善供養も、薫が行った。薫は匂宮に、姫君達の事を語った。
年末で、雪の積っている頃、薫は宇治を訪ねて、八宮の遺言や自分の胸中を、それとなく大君に語った。大君の応待には心を引かれた。京住みの事なども仄めかして帰る時、鬘鬢の宿直人にも逢った。春には、山の僧から、芹や蕨などを贈って来た。薫からも匂宮からも、絶えず消息が来る。中君の冷淡に対して、匂宮は薫を責め恨んだ。
夕霧は、その六君を匂宮にと願っているが、匂宮にはその気がない。その年、三条宮が焼亡した。薫は、大君を自分のものと考えて、頼りに思っている。けれども、大君の心をまげてまでと、積極的には働きかけない。夏の暑い頃、薫は宇治を訪ねた。喪服姿の大君を覗き見て、その風情を一層愛らしく思った。