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第三章 中の君の物語 中の君と匂宮との結婚   

2. 彼岸の果ての日、薫、匂宮を宇治に伴う   

 

本文

現代語訳

 二十八日の、彼岸の果てにて、吉き日なりければ、人知れず心づかひして、いみじく忍びて率てたてまつる。后の宮など聞こし召し出でては、かかる御ありきいみじく制しきこえたまへば、いとわづらはしきを、切に思したることなれば、さりげなくともて扱ふも、わりなくなむ。

 二十八日が、彼岸の終わりの日で、吉日だったので、こっそりと準備して、ひどく忍んでお連れ申し上げる。后宮などがお聞きあそばしては、このようなお忍び歩きを厳しくお禁じ申し上げなさっているので、まことに厄介であるが、たってのお望みのことなので、気づかれないようにとお世話するのも、大変なことである。

 舟渡りなども所狭ければ、ことことしき御宿りなども、借りたまはず、そのわたりいと近き御庄の人の家に、いと忍びて、宮をば下ろしたてまつりたまひて、おはしぬ。見とがめたてまつるべき人もなけれど、宿直人はわづかに出でてありくにも、けしき知らせじとなるべし。

 舟で渡ったりするのも大げさなので、仰々しいお邸なども、お借りなさらず、その辺りの特に近い御庄の人の家に、たいそうこっそりと、宮をお下ろし申し上げなさって、いらっしゃた。お気づき申すような人もいないが、宿直人は形ばかり外に出て来るにつけても、様子を知らせまいというのであろう。

 「例の、中納言殿おはします」とて経営しあへり。君たちなまわづらはしく聞きたまへど、「移ろふ方異に匂はしおきてしかば」と、姫宮思す。中の宮は、「思ふ方異なめりしかば、さりとも」と思ひながら、心憂かりしのちは、ありしやうに姉宮をも思ひきこえたまはず、心おかれてものしたまふ。

 「いつもの、中納言殿がおいでです」と準備に回る。姫君たちは何となくわずらわしくお聞きになるが、「心を変えていただくように言っておいたから」と、姫宮はお思いになる。中の宮は、「思う相手はわたしではないようだから、いくら何でも」と思いながら、嫌な事があってから後は、今までのように姉宮をお信じ申し上げなさらず、用心していらっしゃる。

 何やかやと御消息のみ聞こえ通ひて、いかなるべきことにかと、人びとも心苦しがる。

 何やかやとご挨拶ばかりを差し上げなさって、どのようになることかと、女房たちも気の毒がっている。

 宮をば、御馬にて、暗き紛れにおはしまさせたまひて、弁召し出でて、

 宮には、お馬で、闇に紛れてお出ましいただいて、弁を召し出して、

 「ここもとに、ただ一言聞こえさすべきことなむはべるを、思し放つさま見たてまつりてしに、いと恥づかしけれど、ひたや籠もりにては、えやむまじきを、今しばし更かしてを、ありしさまには導きたまひてむや」

 「こちらに、ただ一言申し上げねばならないことがございますが、お嫌いなさった様子を拝見してしまったので、まことに恥ずかしいが、いつまでも引き籠もっていられそうにないので、もう暫く夜が更けてから、以前のように手引きしてくださいませんか」

 など、うらもなく語らひたまへば、「いづ方にも同じことにこそは」など思ひて参りぬ。

 などと、率直にお頼みになると、「どちらであっても同じことだから」などと思って参上した。



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