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第四章 中の君の物語 匂宮と中の君、朝ぼらけの宇治川を見る   

2. 薫、明石中宮に対面   

 

本文

現代語訳

 中宮の御方に参りたまひつれば、

 中宮の御方に参上なさると、

 「宮は出でたまひぬなり。あさましくいとほしき御さまかな。いかに人見たてまつるらむ。上聞こし召しては、諌めきこえぬが言ふかひなき、と思しのたまふこそわりなけれ」

 「宮はお出かけになったそうな。あきれて困ったお方ですこと。どのように世間の人はお思い申すことでしょう。主上がお耳にあそばしたら、ご注意申し上げないのがいけないのだ、とお考えになり仰せになるのが耐えられません」

 とのたまふ。あまた宮たちの、かくおとなび整ひたまへど、大宮は、いよいよ若くをかしきけはひなむ、まさりたまひける。

 と仰せになる。大勢の宮たちが、このようにご成人なさったが、大宮は、ますます若く美しい感じが、優っていらっしゃるのであった。

 「女一の宮も、かくぞおはしますべかめる。いかならむ折に、かばかりにてももの近く、御声をだに聞きたてまつらむ」と、あはれとおぼゆ。「好いたる人の、おぼゆまじき心つかふらむも、かうやうなる御仲らひの、さすがに気遠からず入り立ちて、心にかなはぬ折のことならむかし。わが心のやうに、ひがひがしき心のたぐひやは、また世にあんべかめる。それに、なほ動きそめぬるあたりは、えこそ思ひ絶えね」

 「女一の宮も、このように美しくいらっしゃるようである。どのような機会に、この程度にお側近く、お声だけでもお聞きいたしたい」と、しみじみと思われる。「好色な男が、けしからぬ料簡を起こすのも、このようなお間柄で、そうはいっても他人行儀でなく出入りして、思いどおりにできないときのことなのだろう。自分のように、偏屈な性分は、他に世にいるだろうか。なのに、やはり心動かされた女は、思い切ることができないのだ」

 など思ひゐたまへる。さぶらふ限りの女房の容貌心ざま、いづれとなく悪ろびたるなく、めやすくとりどりにをかしきなかに、あてにすぐれて目にとまるあれど、さらにさらに乱れそめじの心にて、いときすくにもてなしたまへり。ことさらに見えしらがふ人もあり。

 などと思っていらっしゃった。お仕えしているすべての女房の器量や気立ては、どの人となく悪い者はなく、無難でそれぞれに美しい中に、上品で優れて目にとまるのもいるが、全然乱れまいとの気持ちで、まことに生真面目に振る舞っていらっしゃった。わざと気を引いてみる女房もいる。

 おほかた恥づかしげに、もてしづめたまへるあたりなれば、上べこそ心ばかりもてしづめたれ、心々なる世の中なりければ、色めかしげにすすみたる下の心漏りて見ゆるもあるを、「さまざまにをかしくも、あはれにもあるかな」と、立ちてもゐても、ただ常なきありさまを思ひありきたまふ。

 だいたいが気後れするような、沈着に振る舞っていらっしゃる所なので、表面はしとやかにしているが、人の心はさまざまなので、色っぽい性分の本心をちらちらと見せるのもいるが、「人それぞれにおもしろくもあり、いとおしくもあるなあ」と、立っても座っても、ただ世の無常を思い続けていらっしゃる。



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