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夢浮橋

第二章 浮舟の物語 浮舟、小君との面会を拒み、返事も書かない   

2. 小君、小野山荘の浮舟を訪問   

 

本文

現代語訳

 あやしけれど、「これこそは、さは、確かなる御消息ならめ」とて、

 不思議に思うが、「これこそは、それでは、確かなお手紙であろう」と思って、

 「こなたに」

 「こちらに」

 と言はせたれば、いときよげにしなやかなる童の、えならず装束きたるぞ、歩み来たる。円座さし出でたれば、簾のもとについゐて、

 と言わせなさると、とても小ぎれいでしなやかな童で、何とも言えないような着飾った者が、歩いて来た。円座を差し出すと、簾の側にちょこんと座って、

 「かやうにては、さぶらふまじくこそは、僧都は、のたまひしか」

 「このような形では、お持てなしを受けることはないと、僧都は、おっしゃっていました」

 と言へば、尼君ぞ、いらへなどしたまふ。文取り入れて見れば、

 と言うので、尼君が、お返事などなさる。手紙を中に受け取って見ると、

 「入道の姫君の御方に、山より」

 「入道の姫君の御方へ、山から」

 とて、名書きたまへり。あらじなど、あらがふべきやうもなし。

 とあって、署名なさっていた。人違いだ、などと否定することもできない。

 いとはしたなくおぼえて、いよいよ引き入られて、人に顔も見合はせず。

 とても体裁悪く思えて、ますます後ずさりされて、誰にも顔を見せない。

 「常にほこりかならずものしたまふ人柄なれど、いとうたて、心憂し」

 「いつも控え目でいらっしゃる人柄だが、とても嫌な、情ない方」

 など言ひて、僧都の御文見れば、

 などと言って、僧都の手紙を見ると、

 「今朝、ここに大将殿のものしたまひて、御ありさま尋ね問ひたまふに、初めよりありしやう詳しく聞こえはべりぬ。御心ざし深かりける御仲を背きたまひて、あやしき山賤の中に出家したまへること、かへりては、仏の責め添ふべきことなるをなむ、承り驚きはべる。

 「今朝、こちらに大将殿がおいでになって、ご事情をお尋ねになるので、初めからの有様を詳しく申し上げてしまいました。ご愛情の深いお二方の仲を背きなさって、賤しい山家の中で出家なさったことは、かえって、仏のお叱りを受けるはずのことを、うかがって驚いています。

 いかがはせむ。もとの御契り過ちたまはで、愛執の罪をはるかしきこえたまひて、一日の出家の功徳は、はかりなきものなれば、なほ頼ませたまへとなむ。ことごとには、みづからさぶらひて申しはべらむ。かつがつ、この小君聞こえたまひてむ」

 しようがありません。もともとのご宿縁を間違いなさらず、愛執の罪をお晴らし申し上げなさって、一日の出家の功徳は、無量のものですから、やはりご期待なさいませと。詳細は、拙僧自身お目にかかって申し上げましょう。とりあえず、この小君が申し上げなさることでしょう」

 と書いたり。

 と書いてあった。



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