30. すぎにしかた恋しきもの
  本文  現代語訳
  すぎにしかた恋しきもの 枯れたるひひなあそびの調度二藍葡萄染などのさいでの、おしへされて草子の中などにありける見つけたる。   時が経ってしまって懐かしいもの。枯れてしまった二葉葵。人形ごっこのお道具。濃い紫、浅い紫などの布切れが押しつぶされて、冊子の中などにあるのを見つけた時。
  また、をりからあはれなりし人の文、雨などふりつれづれなる日、さがし出でたる。こぞのかはほり   また、うけとった折、感に堪えなかった人の手紙を、雨など降り、しんみりとした日、探し出た時。去年使った夏扇。
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
 

1…二葉葵。四月の賀茂祭に社前はじめ衣服・車・桟敷、家々の簾・柱などにつける。

2ひひなあそびの調度…人形ごっこのお道具。幼時が思い出される。

3 二藍…紅(くれのあい)と藍(からのあい)とで染めた間色で濃い紫。

4葡萄染…葡萄の実の色による名らしく、浅い紫色。

5さいで…「さいで」は「さきで」(割出)の音便といい、布切の意。それがおしつぶされて。

6 をりからあはれなりし人の文…うけとった折、感に堪えなかった人の手紙を。

7 こぞのかはほり…去年使った夏扇。