60. よき家の中門あけて
本文 |
現代語訳 |
語彙 |
よき家の中門あけて、檳榔毛の車のしろくきよげなるに、蘇枋の下簾、にほひいときよらにて、榻にうちかけたるこそめでたけれ。五位・六位などの下襲の裾はさみて、笏のいとしろきに、扇うちおきなどいきちがひ、また、皆束し、壺胡籙(つぼやなぐひ)負ひたる隨身の出で入りしたる、いとつきづきし。厨女のきよげなるが、さし出でて、「なにがし殿の人やさぶらふ」などいふもをかし。 |
よい家の中門を開けて、檳榔毛の車が白く美しいのに、蘇枋の下簾も、きれいな雰囲気がして、榻にふとかけることこそめでたいものはない。五位・六位の者などが、進退し、木笏のま新しいのに扇を添えなどして、扇をふと置いたりして行き違い、また、正装し、壺胡籙を背負っている随身が出入りしていることは、たいそう似つかわしい。雑仕の女がきれいなのが、差し出てきて、「なになに様の使いの方がいらっしゃる」などというのも趣深い。 |
すはう【蘇芳】【蘇枋】…【名詞】@木の名。いちいの別名。材質が堅く、建築材、器具材とする。A木の名。すおう。低木で、心材の削りくずや実のさやを煎(せん)じて暗紅色の染料に用いる。B染め色の一つ。Aから得た染料で染めた色。紫がかった赤色、黒みがかった紅色などをいう。C襲(かさね)の色目の一つ。表が薄い蘇芳色、裏が濃い蘇芳色。 つきづきし…【形シク】似つかわしい。ふさわしい。調和がとれている。しっくりしている。 |