60. よき家の中門あけて | |
本文 | 現代語訳 |
よき家の中門あけて、檳榔毛の車のしろくきよげなるに、蘇枋の下簾、にほひいときよらにて、榻にうちかけたるこそめでたけれ。五位・六位などの下襲の裾はさみて、笏のいとしろきに、扇うちおきなどいきちがひ、また、皆束し、壺胡籙(つぼやなぐひ)負ひたる隨身の出で入りしたる、いとつきづきし。厨女のきよげなるが、さし出でて、「なにがし殿の人やさぶらふ」などいふもをかし。 | よい家の中門を開けて、檳榔毛の車が白く美しいのに、蘇枋の下簾も、きれいな雰囲気がして、榻にふとかけることこそめでたいものはない。五位・六位の者などが、進退し、木笏のま新しいのに扇を添えなどして、扇をふと置いたりして行き違い、また、正装し、壺胡籙を背負っている随身が出入りしていることは、たいそう似つかわしい。雑仕の女がきれいなのが、差し出てきて、「なになに様の使いの方がいらっしゃる」などというのも趣深い。 |
1 中門…寝殿造で東と西の渡殿のそれぞれ中程を切り通して開いた門の称。総門の内側にあり、中は庭園に通ずる。 2 檳榔毛の車…貴人の晴れの乗用車。 3 きよげ…下の「きよら」と同じく今いうきれいの意。 5 蘇枋…ここは染色や襲にいう名称でぼかしのこと。 6 榻…車輿を停める際、轅(ながえ)を置く台。 7 下襲の裾はさみて…下襲の裾は進退の際、便宜折って石帯にはさむ。 9 皆束…正装すなわち束帯姿。ここは随身の正装。 10 壺胡籙…胡籙は矢の杭の義、矢を盛って背に負う器の称。丈長く筒状のものを壺胡籙といい、丈短く口の開いているものを平胡籙という。 |
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